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インドネシア版「地面師」問題?Club de Arjuna土地紛争から学ぶ二重登記の危険

不動産研究所 インドネシアの不動産事情 

INDONESIA REAL ESTATE RISK
インドネシア不動産の危険
「二重登記」問題
Club de Arjuna(西ジャカルタ)の紛争事例から学ぶ

インドネシアで不動産投資や物件仲介に携わる上で、避けて通れないリスクのひとつが「二重登記」または「土地の二重主張」です。
今回は2026年に西ジャカルタ・クドヤ(Kedoya)で表面化した「Club de Arjuna」をめぐる土地紛争を具体例として、その構造とリスクを解説します。

本件は係争中の事案です。
現時点で、いずれの主張が司法上認められるかは確定していません。

1. 何が起きているのか ― 事案の概要

西ジャカルタのClub de Arjuna

画像出典:
POROS JAKARTA
西ジャカルタ・クボンジュルック区クドヤスラタン(Kedoya Selatan)に所在する「Club de Arjuna」(スポーツクラブ施設)の敷地約2.4ヘクタールをめぐり、①現在の土地保有者である「PT HD Arjuna」と、②故Saamah(Samaah)binti Abdullah Dul Doing 氏の相続人を名乗る側との間で、所有権をめぐる争いが起きています。
双方とも、自らの権利を裏付ける書類や過去の法的手続きを根拠として正当性を主張しているものの、争点は単に「証明書があるかどうか」だけではなく、各書類が示す土地の所在地と、実際にClub de Arjunaが建っている土地が一致しているかという「対象地の特定」にまで及んでいます。
また、2026年6月末には相続人側を支援する団体らが現地で抗議行動を行い通常の営業が困難な状態になりました。

2. 法人(PT HD Arjuna)側の主張

PT HD Arjuna側と代理人による説明

画像出典:
JPNN.COM
同社は2008年にPT Supra Pramesti Saktiとの売買取引を通じてこの土地を取得したとしています。取得の根拠となっているのは、ATR/BPN(国家土地庁)発行のSHGB(建設権)3523号、3524号、3525号の3件で、同社側の弁護士Denny Kailimang氏は、土地を10年以上にわたり占有・利用し、建物を建設したほか、土地建物税(PBB)などの義務も履行してきたと説明しています。また、この間本権利が裁判所によって無効とされたことはないとしています。
会社側はさらに、相続人を名乗る側が根拠とする「Girik (旧来の地籍台帳・慣習法上の権利証)C351」について、クドヤスラタン区の土地台帳(Buku Besar Tanah)に正式な記載はなく、当該番号だけが赤インクで追記されているなど、他の記録とは異なる不自然な点があると指摘しています。
PT HD Arjunaは、現在有効なSHGBがある以上、権利を否定するのであれば裁判所など正式な法的手続きを通じて争うべきであり、現場での占拠、封鎖、威圧的な行為などによって解決すべきではないとの立場を取っています。

3. 相続人側の主張
一方、相続人側代理人は、2007年に死去したSaamah binti Abdullah Dul Doing氏を地権者とするGirik C351号(1938〜1947年の地租台帳や1982年の村落地図などの historik資料に基づく、面積24,000平方メートルの土地)を所有権の根拠として主張しています。
ただし、相続人側の支援団体担当者によると論点はPT HD Arjunaが保有する証明書の存在そのものだけではなく、「対象土地の誤り(error in objecto)」、つまりPT HD Arjunaが保有するSHGBは、法的には別の場所(Jalan Arjuna Terusan)に登記されており、”実際にClub de Arjunaが建つ場所(Jalan Arjuna Utara)とは異なる土地を指しているのではないか”、という主張です。相続人側は、この点が西ジャカルタ地方裁判所での審理や近隣の相続人支持クループの証言によって裏付けられたと話しています。

4. 紛争は2013年ごろから表面化
相続人側の説明によれば、紛争が表面化したのは2013年頃から。PT Supra Pramesti Saktiが土地にフェンスを設置したところ、相続人側がこれに反対し、設置されたフェンスを撤去したというもの。その後、再びフェンスが設置されたため、相続人側が土地取得の法的根拠を調査し、文書偽造や土地侵奪の疑いがあるとして警察へ申告したとされています。

5. なぜこうした紛争が起きるのか ― 構造的背景
Club de Arjunaのケースは特殊な大型事案ですが、背景にある構造はインドネシアの土地取引で広く見られるものです。
1
登記制度の二重構造
植民地時代由来の慣習的権利証(Girik、Petok D、Leter Cなど)と、現代のBPN発行の正式証明書(SHM/SHGB等)が並存しており、両者が同一地番で存在するケースがある

2
地籍図の未整備
特に都市周辺部・旧郊外エリアでは、地籍測量が不完全なまま開発が進み、境界や所在地の特定に曖昧さが残る

3
相続の未整理
地権者が死去した後、相続手続きが正式に完了しないまま数十年が経過し、複数の相続人・代理人が別々に権利を主張できる状態になる

4
証明書発行プロセスの不備
不備区役所レベルの台帳記載の誤り・不整合(今回のケースのような「赤インク」の記載など)が、後年になって係争の火種になる

5
土地マフィアの関与
偽造書類や不正な仲介を通じて権利を主張する第三者が介在し、正当な取引を行った買主側が巻き込まれるケースもある

6. 日本人投資家・仲介者が学ぶべき実務上の教訓
SHGB/SHMの有効性だけで安心しない
公式証明書があっても、その証明書が指す土地の所在地(地番・境界)が実際の物件所在地と正確に一致しているかをしっかりと検証することが重要です。
Girik等の旧証明書が残っていないか確認する
特に都心部ではない郊外の住宅エリアでは、慣習的権利証の存在有無を近隣住民・区役所レベルで確認することが重要です。
相続関係の整理状況を確認する
地権者が個人・旧家系の場合、相続人が複数存在し得ること、相続手続きが未了である可能性を前提に調査する必要があります。また、現在原権利者が高齢化し子息らへ成年後見人が設定されている場合も多くあり、この場合も権利関係に注意が必要です。
独立したデューデリジェンス
売主側が提示する書類だけに依拠せず、第三者の専門家による権利関係の独立調査、土地環境調査を必ず行うべきです。

7. まとめ
Club de Arjunaのケースは、現時点(2026年7月)でまだ司法上の最終決着がついていない係争中の案件であり、いずれの主張が法的に認められるかは今後の裁判所の判断に委ねられています。
ただし、ここでの争点は「有効な証明書を持っていること」と「その証明書が実際の土地と正確に一致していること」は別問題であるという、インドネシア不動産取引においてのリスクです。
不動産購入の際は、デューデリジェンスをしっかり行うことのできる業者を利用することをおすすめします。

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関連報道・参考記事
本記事の作成にあたり、以下のインドネシア現地報道を参考にしています。係争中の案件であり、各記事には当事者それぞれの主張が含まれています。
DETIKNEWS
運営会社、Club de Arjunaの土地はATR/BPN発行の有効な証明書を保有していると主張
PT HD Arjuna側が保有する3件のSHGB、土地取得の経緯、会社側の見解を紹介した記事です。

SUARA.COM
ジャカルタの2.4ヘクタールの土地紛争が激化、デモ参加者が土地マフィア疑惑の捜査を要求
相続人側のGirik C351、対象土地の誤りという主張、現地で行われた抗議活動を紹介した記事です。

JPNN.COM
クドヤのClub de Arjunaをめぐる紛争について、弁護士が説明
PT HD Arjuna側の弁護士が、現場での行動ではなく正式な法的手続きを通じて解決すべきとの見解を説明した記事です。
※リンク先はインドネシア語の外部ニュースサイトです。本件は係争中であり、記事内の説明や主張が司法上確定した事実であることを示すものではありません。

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